In the world
比菜子と一緒に家へ歩いている途中、やけにカラスの鳴き声が聞こえる気がした。だからといってそれ以上に気にすることはく、私はいつものように比菜子と話をしながら笑った。
今思えば、あれは予兆だったのかもしれない。あの忌まわしい事件の―――。
家に入ろうとすると何だかいつもと違う気がした。玄関の扉が開いている。鍵を閉め忘れたんだろうか。…用心深い母が?
「碧衣、この花キレイだねー」
比菜子は花壇を見ていた。
「あ、それお母さんが新しく育ててるの。」
碧衣は気付いた。
土がカラカラに乾いている。
そして朝まで元気に咲いていた花が何だか萎れて見えた。
母は花が大好きで庭でいくつもの花を育てていた。水やりは一日たりとも怠ったことはない。…はずだ。毎日自分が帰ってくるあたりに水やりをしているのだ。
何か特別な用でもあったのかな…
かすかに開いている玄関のドアを引き家に入る。
いつもの家なのに不気味なほどに静まり返ってる気がした。
それはあまりにも突然だった。
「…お…母さん?」
一体これは何なの。分からない。今自分が見ているものは現実?そんなはずない。ああ、そうか。悪い夢を見てるんだ。そうだ。嘘だ。これは夢ですべてがウソの世界。
…そうでしょ…?