【短ホラー】ゆふだち
序章
蝉が鳴いていた。

ぽつり、ぽつりと二、三匹。

低くなった太陽の、蒸し暑い日差しの中で、小さく空気を震わせる。

畦道は砂まで静かに黙っていて、風の音も聞こえない。

私は木陰の下で。
葉の隙間から射し込む西陽が瞼を透かした。

あ、
不意に蝉の鳴き声が途絶えた。

気配まで消えてしまったかのように、

何も、聞こえない。

ぽとり。

風がひとつ吹いて、私の顔の近くに何か落とした。

ぽとり、ぽとり。

二、三度軽い音がしたのち、夕立がやってきた。

私はじっと横たわっていた。
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