【短ホラー】ゆふだち
山の中は木々が生い茂っていて、鬱蒼としていた。

道は、この大八車が通れるくらいには舗装された、緩い坂道になっている。

湿った土のおかげで、足元がヒンヤリとしていて心地がよい。
懐かしいような土の匂いが肺に広がる。

静かな世界だった。

虫の声も風の音も、壁を隔てた向こうにあるように遠く感じた。
車の軋む音だけが、やけに鮮明に聞こえる。

10分くらい歩いた。
上を見上げると、空は木の葉に隠されて、月の傾きも分からない。

どこまで、行くのだろう。
これを、どこに持っていくつもりなのか。

大八車の荷台では古ぼけた簾が微かに揺れる。
車輪が道の窪みにはまると、揺れた弾みで簾が捲れそうになった。


僕は、ずっと隠していた好奇心に駆られてしまった。


女は、何を運んでいるのだろう、と。
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