【短ホラー】ゆふだち
「天舟湖って知ってる?」

「そらふなこ…?」

「天をそのまま写したような湖なんだ」

星も雲も鳥も全部水面に映っていて、まるで天がそこに在るように見える。
三日月の夜は、舟みたいな月が静かに浮かんでいる。

彼女は私の話を始終興味深そうに聞いていた。

「その湖はどこにあるの?」

「あの山の中だよ」

私がそう言って遠くの山を見やると、彼女も穏やかな顔をして私と同じ方を眺めた。

「天舟湖って不思議な名前ね」

「私がつけたんだ」

彼女は私に目を向けてクスリと笑った。

「良い名だろう?」

「ええ、とても行ってみたくなったわ」

「そう。なら、次の三日月の夜に一緒に行こう」
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