【短ホラー】ゆふだち
また明くる日も、女はひとつ隣の木に移動していた。

大八車の傍に座り、簾の中に右手を差し込んでいる。

まるで何かを撫でているようだ。
優しく、愛しげに。

僕は、1日前に女が佇んでいた木陰に腰掛け、女を見ていた。

陽炎が立ちのぼる。
女の姿が歪んで見えた。


その日、僕は轍を辿った。
でも、どこまでも続くそれの果ては見つけられなかった。

夜には雨が降った。
しとしとと雨粒が地面に染み込む。


轍は消えてしまった。
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