【短ホラー】ゆふだち
その日は朝から雨が降っていた。
細い雨に村は煙る。

空は重く湿っていて、ひどく蒸し暑い。

僕は、祖母の家の大きな窓から霞んだ山を眺めるのだった。

女も、今ごろは、囚われたようにそれに見入っているだろう。


夕刻、雨が止んだので、僕は女の許を訪ねた。

女は、ガタ、ガタと音を鳴らしながら、ゆっくりと大八車を引いていた。

その重みを一身に受けて、女は一歩、また一歩と進む。
本当に、ゆっくりと。


僕は、後ろからそっと、大八車を押した。

女はまた、気付かなかった。
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