SMOKE&CANDY《短》
來貴はゆっくりと私に顔を向けた。
その顔には汗一つ浮かんでいなくて、汗のかわりに怪しげな笑みが浮かんでいる。
その笑みは……過去に何度か見た、最高に機嫌が悪いときの來貴の表情だった。
これは、想像以上に機嫌悪いな。
さっきまでは普通だったのに。
暑いから早く帰りたいんだけどな。
だけど不機嫌なままの來貴を放っておくと後々、面倒臭いことになりそうだし。
熱で完全停止していた思考回路を無理矢理、再起動させて。
どうすれば來貴がこの場所から立ち上がってくれるのかを考えていると。
右手にひんやりとしたものが触れた。
その気温と反比例したような冷たさに、反射的に自分の右手を確認してしまう。
そこには。
私の右手には來貴の左手が、当然のように重ねられていた。