ブルーストーンは永遠に
ぼくはリセットされた頭で一番初めに浮かんだ有名であろう選手の名を告げた。
「おれはベルカンプだと思うね。ゴール前でみせるあの身体能力とキープ力はすごいよ。オランダは結構いい線いくよ絶対」
友達がそのままその根拠を語ろうとした時、先生が戸を開ける音がした。クラス全体が一様に視線を戸に注ぐと、すぐにみんな慌しい足音を立て席に着いた。


この一週間はテスト尽くしだったが、ワールドカップも気になってついつい脱線してテレビで観戦してしまったりして、あまり勉強には集中できなかった。
テストの結果はぼくにしてはイマイチだったのか健闘したのか、わからない微妙な点数だったけれど、間違っても他人からは褒められるような点ではなかった。
隣の席の良太が「親の説教くらっちまうよ」と嘆いていたけど、ぼくは別段気にする事はない。母も父もテストはどうだったかなんてほとんど訊かないからだ。
ぼくへの興味が尽きたのか、あるいは忙しそうにしている父を見ると子供に構う余裕がなくなったのかとも思う。
初めての中間テストは五教科の平均が七十点を超えるくらいの点数を叩き出した。
期末はこけたものの、原因はワールドカップでやってしまった深夜づけだとわかっている。
試合は期間中は見ないと決めてかかったものの、ほとんど生放送で観戦してしまった。
ビデオにも撮ってはスーパープレーが出るたびにズブくなったビデオデッキの巻き戻しボタンをくどいほど押して再生させては画面に食い入っていた。
そのワールドカップは司令塔ジダンを擁するフランスが決勝戦でブラジルを破り初優勝を果たした。
得点王は六得点を叩き出した三位のクロアチアのスーケルで、ぼくと友達の予想はどちらも当たらずじまいだったが、オランダはベスト四まで登りつめた。
テレビの中にいるフランスは、本国のスタジアムで黄金のトロフィーを空高く誇らしげに掲げて、勝利の美酒に酔いしれていた。
ぼくはリモコンのボタンを押してテレビを切った。
静寂が一瞬にして部屋の中を支配した。
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