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「財布?俺、財布持ってねーからな。金だって全部使っちまった。今日は“将太郎”のおごりなんだよねー。」

 将太郎とは、千秋の同期で遊び相手の男の事だ。

「攻撃は受けなかったんすか、奴らお金もってない人、見かけだけで判断できるのかな?」
 訝しがるヨッタ。

「ザーラ星人は、野性の勘で、お金を持ってない人と、“地毛”のない人を判別して、ターゲット以外は興味を示さないんだ。だからヨッタにも、お金持って来るなって言ったんだよ。」
 ポゴが耳元で囁いた

「なるほど。千秋さん、お金もってないからやられなかったんだ。」
 納得するヨッタ。

「ははは、変な事で納得すんなよ。しかし将太郎遅いな。」
 千秋は腕組みし、煌めく街並を振り返る。

「千秋!までよー」
 小太りの男が近付いてくる。この男が、同じく会社の先輩・将太郎だった。

「将太郎遅いよ。」
 千秋が言う。将太郎は肩で息急き切っている

「ば…馬鹿ゆぅでねぇ。おで、会計してだんだべよ。待ってでくっちもいいべよ。」
 将太郎が反論する。

「ちぃっす、将太郎さん。そっちは無事なんすね」
 ヨッタが挨拶する。将太郎のおばちゃんパーマが目に入った。まだ被害を受けてないらしい。

「おう“ヨッダ”おめも飲みに来でんのが。なんか今日、あんま人居ねぇがんな、ゆっぐり飲めっぺ。それよっか千秋のあだま見だが?すげぇべ。」
 将太郎が言った。

 将太郎はこの県に移り住んで十年以上経つらしいが、その訛(なま)りは一向に治る気配を見せなかった。

「本当すね、将太郎さんも気を付けた方がいいですよ。特に将太郎さん、金もちだから。」

「金?そんなもん持ってねーど。おで、カードしか持だねえがんな。」
 言って将太郎は和やかな笑顔を見せた。

「ははは、将太郎ん家は金持ちだからな、現金は持たねーんだ。プラチナカードだぜ、こいつ持ってるの。」
 千秋が言う。

 将太郎の実家はビル王とさえ呼ばれる、日本屈指の起業家だった。
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