？？？

何出弥製作所の朝

　あざらし事件から五日が過ぎた。

　街も落ち着き、普段通りの日々が戻っていた。

　ここ何出弥製作所にも、いつもの喧騒が戻っていた。

　只違うこと、それは…


「オッス！ヨッタ。今日も眠いな。」
　千秋が挨拶してきた。

「ちいっす、千秋さん。その頭…結構伸びたじゃないっすか。」

　前とは違うことそれは、幾人かの髪型が変わった事だ。

「だなー。伸びるんだよこれが。五日で二センチだぜ。このままいけば、一年で百四十センチだよ。まあ、伸びたら、自分で切るから良いけどな。」

「ですねー千秋さん坊主頭も格好いいすよねー。…そう言えば、テレビでやってましたよ。『驚異のパワーあざらしの唾液で驚きの育毛効果』って。」

「ああ、見たよ薄毛で悩んでいた人も、あの“野良あざらし”に襲われて、“ふさふさ”になったって話だろう。どこ行ったんだろうなあの野良。」

　このところ、この話題で持ちきりだった。

「ザーラ星人達は、人の髪を食べる反面、育毛剤の様な唾液を残していくんだ。自分達の餌だから、つまり自給自足だね。」
　ポゴが囁いた。

「お早ようございます。千秋さん。ヨッタ。」
　会話を進めるヨッタ達の所に京子が現われた。

「オッス京子。」

「お早よう京子ちゃん。」
　ヨッタ達も挨拶を返す。

「貴ボン、今日も来ないのかな。」
　京子の表情が沈む。

　あの事件から変わったもう一つの事。それは貴ボン・将太郎・鈍平の三人が会社を休んでいた事だ。


「大丈夫。貴ボンはあれ位じゃ、落ち込まないよ。」
　ヨッタが慰め（なぐさめ）た。

「でも、私の病気のせいで。」

「大丈夫だって。千秋さん見てみろよ、千秋さんもあのあざらしにやられたけど、こんなに伸びてるじゃん。今頃は貴ボンも。」
　ヨッタが言う。千秋が頷いた。

「うん、そうだね。私が落ち込んでたら、逆に貴ボンに悪いものね。」
　京子の顔に笑みが戻る。