???
「おい、紫織。」
 化粧室から出てきた紫織を貴ボンが待ち構えていた。

「た…貴ボン先輩。どうしたのです?」
 不意な事に驚く紫織。

「へへへ…お前さ、ヨッタに告白したのかよ?」
 口元に薄ら笑いを浮かべ貴ボンが訊ねる。

「そ…そんなはしたない…」
 紫織の顔が紅潮する。

「何だよ、駄目じゃん。折角“同じ会社”入ったのに 。」
 貴ボンはフッと息を吐く。


 お嬢様である紫織が、好き好んで何出弥製作所などに入ったのには、訳があった。

 たった一度出会った男に、恋してしまったのだ。
 それこそがヨッタだったのだ。


「女子である私が、自らヨッタ先輩に告白するなんて有り得ませんわ。」
 紫織は頭を振りながら、左手を振る、貴ボンの脇腹を叩きながら。

「痛っ…痛えよ。な…なら犯っちまえよ。俺がお膳立て、してやっからよ。」
 貴ボンはヤクザさながらに言う。

「“犯っちまう”?な…なんの事ですの?」
 意味が分からず問い質す紫織。

「何だよ、お前処女か?“本牧(ほんもく)の白雪姫”と言われた紫織さんが。」

「貴ボン先輩。それは言わない約束ですよ。」
 紫織は紅潮しながら、貴ボンを睨む。



 白雪姫とはかつて、紫織が呼ばれた俗称である。

 相手の攻撃も受けず、倒した相手の血飛沫(しぶき)も一滴たりと受けない、そんな彼女に送られた、最大の呼び名であった。

 そう紫織は女学院に通うお嬢様の反面、レディースの総長もこなしていたのだ。
 同じく暴走族の大総長だった、貴ボンとの繋がり(つながり)もその頃からだ。


 そんな折り貴ボンが、集会に連れてきた“おたく”のヨッタ。紫織はそれに、一目惚れしてしまったのだ。
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