???
 信じられない光景が飛び込んだ!


 あざらしがヨッタに向かって右フックを繰り出して来ているのだ。

 慌ててそれを避けようと、後ろに身を逸らす(そらす)ヨッタ。何とかかすった程度で直撃は免れた。

 だがかすった程度であっても、ヨッタの体に激痛が走る

「こ…こいつ、マジであざらしかよ!」

「ガオー」
 くっきーがあざらし目がけて飛び掛かった。

「く…くっきー。」
 普段おとなしいくっきーからは、想像さえ出来ない雄姿(ゆうし)だった。

 ヨッタの目の前では、凄まじい格闘が繰り広げられていた


 ヨッタは、固唾(かたず)を飲んで見守る。やがて気付いたように、辺りを見回し、落ちていた小枝を掴むとあざらし目がけて力一杯振り下ろした。

「キ…キキュー」
 あざらしは、よろよろとよろめく。刹那(せつな)、くっきーがあざらしの喉笛に食らい付いた!

「キ…キュー」
 かすれるような鳴き声が上がる。やがてあざらしは、ドスッと倒れ込んだ。

「ハァハァ。大丈夫か?くっきー。」
 ヨッタは、肩で息しながら、くっきーを見る。くっきーは、尻尾を振ってヨッタに無傷をアピールする。

 そして倒れるあざらしに視線を向けた。あざらしの、口元に何かが見えた。

「これは、」
 金色に輝く繊維(せんい)の固まり。手に取って初めて気付いた。それはカツラの様な髪の毛であった。

「何だ、このカツラは、貴ボンのか!あいつカツラだったのか?」


 この時、ヨッタには気付いて無い事があった。一台の車が近づきつつあることだ


「…被ってみるか。」
 何を考えたのか、ヨッタは、あざらしの唾液で汚れたそれを、頭に装着した

「うーん、ナイスフィット。どうだ?くっきー、このスーパリーゼント。」

「ワンワンワン」
 くっきーが尻尾を振って喜ぶ

 その時ヨッタの目が、光りで塞がれ(ふさがれ)た

 一台の車がすぐそこまで来ていたのだ


 それは、あの車だった。

 赤いハイラックスサーフ!
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