アリスズc

 そして。

 その日は、やってくるのだ。

 とてもとても長い髪の子供と、白い髪の歌う少女の話は、到底隠しておけるものではなかった。

「やっと見つけたぜ…」

 男は── 一人で現れた。

 野営中の炎の側で、リリューは既にサダカネを抜く寸前で間合いを計っていた。

 二十半ばくらいか。

 ざんばらに伸ばした髪が、まだらに白い。

 その白さが、リリューを警戒させるのだ。

 そして、腰にはあの者たちと同じ鋳造の剣をさげていた。

 間違いなく、月側の人間だ。

 男は、まっすぐに一人を見ている。

 桃の後ろの、コーを。

 コーは。

 あの白い髪の少女は、茫然と男を見ていた。

 恐怖でも怒りでもなく、魂がなくなったように茫然と。

 桃は、そんなコーを守るように、腰に手をかけている。

 しかし。

 男の視線は、その少女からひきはがされた。

 別の男が、口を開いたからである。

「私は、ハレイルーシュリクス=イデアメリトス=ラットフル18です。我らの旅路に、何の御用ですか?」

 いつもの穏やかさではない。

 芯の太い、強い声。

 彼は、堂々と己の名を──いや、名という形をした血の全てを、名乗ったのだ。

 相手が誰かを知っていて、である。

 これは。

 宣戦布告。

 彼らの旅路に邪魔をするならば、必ず打ち倒せという男の強い意思。

 リリューは、それを汲んだ。

 だから。

 サダカネを。

 抜いた。

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