アリスズc
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「お外が嫌いな方の坊ちゃんか…」
男の目は、まっすぐにハレに向けられた。
憎々しく、吐き捨てるような声。
リリューが、既に刀を抜いたというのに、まったく動じている様子はない。
続いてモモも抜刀したが、彼女の方に視線ひとつ動かすこともなかった。
「一人で来たからには…貴殿も自分の力に自信があるのでしょう」
猛毒の言葉など、ハレの皮膚一枚焼くことさえない。
既に、己は魔法が使えない身でありながら、それを決して匂わせなかった。
余りの動じなさにか、男は忌々しげに舌打ちをする。
あと一歩でも近づこうものなら、リリューは斬りかかるつもりだった。
既に、ハレの許可は宣戦布告という形で出ている。
「お前を嬲り殺して、バカ女を連れ帰れば、誰もオレに逆らうものなど出ないな…」
だから。
男の口が、その三文字を唇だけで綴った次の瞬間。
一歩より先に。
その口が──大きく開いた。
音は。
なかった。
だが、波は来た。
聞こえない音の波。
リリューは、踏み出そうとしたのだ。
一歩を自分の足で、飛び越えようとしたのだ。
だが。
音の波の方が、速かった。
刀を持ったまま、リリューは動けなくなった。
全身が石のように固まり、心以外が全て封じられたのだ。
そして、動けなかったのはリリューだけではなかった。
視界の端に映る全てが、止まったのだ。
モモも、ホックスも──ハレも。
「ハッハッハッ! ざまぁねぇ!」
男は、大きな嘲りの笑いを発した。
ああ、そうか、そうだったか。
動けないまま、リリューは理解した。
トーは、歌しか歌わない。
だが、その歌に沢山の秘密は隠されていたではないか。
人の心を揺さぶる歌。
そう──彼らの魔法は音、なのだ。
「お外が嫌いな方の坊ちゃんか…」
男の目は、まっすぐにハレに向けられた。
憎々しく、吐き捨てるような声。
リリューが、既に刀を抜いたというのに、まったく動じている様子はない。
続いてモモも抜刀したが、彼女の方に視線ひとつ動かすこともなかった。
「一人で来たからには…貴殿も自分の力に自信があるのでしょう」
猛毒の言葉など、ハレの皮膚一枚焼くことさえない。
既に、己は魔法が使えない身でありながら、それを決して匂わせなかった。
余りの動じなさにか、男は忌々しげに舌打ちをする。
あと一歩でも近づこうものなら、リリューは斬りかかるつもりだった。
既に、ハレの許可は宣戦布告という形で出ている。
「お前を嬲り殺して、バカ女を連れ帰れば、誰もオレに逆らうものなど出ないな…」
だから。
男の口が、その三文字を唇だけで綴った次の瞬間。
一歩より先に。
その口が──大きく開いた。
音は。
なかった。
だが、波は来た。
聞こえない音の波。
リリューは、踏み出そうとしたのだ。
一歩を自分の足で、飛び越えようとしたのだ。
だが。
音の波の方が、速かった。
刀を持ったまま、リリューは動けなくなった。
全身が石のように固まり、心以外が全て封じられたのだ。
そして、動けなかったのはリリューだけではなかった。
視界の端に映る全てが、止まったのだ。
モモも、ホックスも──ハレも。
「ハッハッハッ! ざまぁねぇ!」
男は、大きな嘲りの笑いを発した。
ああ、そうか、そうだったか。
動けないまま、リリューは理解した。
トーは、歌しか歌わない。
だが、その歌に沢山の秘密は隠されていたではないか。
人の心を揺さぶる歌。
そう──彼らの魔法は音、なのだ。