アリスズc

 リリューは、石のような自分の身体を引きずりながらも、足を止めずに進む。

「く、くるな! きたら、こいつを殺すぞ!」

 男は、明らかに狼狽していた。

 自分の魔法を、二人が破ろうとしているからだ。

 おそらく、いままで誰にも破られなかったのだろう。

 だが、一回目の呪縛から、モモは既に解く気配をみせていた。

 リリューもまた、縛られるままに任せていたわけではない。

 敵がコーを殺すことは、ない。

 そんなこと、彼らはみんな知っている。

 だからモモも、足をにじり出す。

 コーは、彼らにとって生きていてこそ価値のある人間だ。

 その声を、歌を、彼らは必要としているのだから。

「くそっ!」

 剣を振り出そうとするが、その腕はリリューに斬られている。

 血しぶきを飛ばすしかできない。

 また少し、身体が動きを取り戻した。

 リリューは、ゆっくりと両腕を振り上げた。

 抜き身のサダカネが、自分と同じヤマモトの呼吸をしている気がした。

 ダンっと。

 モモが、強く地面を踏みつけた。

 男は。

 逃げようとした。

 コーを引きずって。

 だが、それは不可能だった。

 コーの抵抗は続いているし、男は腕と足に怪我を負っていたからだ。

 モモが足を斬ったのは、結果的にいい判断だった。

 決して、コーを連れて逃げ切ることは出来ない。

 随分と血を流し、身体もぼろぼろのはずだ。

「くっ……!!!」

 男はついに──コーを捨てた。

 そして、夜の闇へと足を引きずりながら消え失せたのだ。

「も…」

 げほげほと咳き込みながら、コーがこっちに向かって手を伸ばす。

 泣きそうになりながら、その両手をいっぱいに伸ばした。

「桃ーー!」

 叫び声さえ美しい中。

 彼らは、全ての自由を取り戻したのだった。
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