アリスズc

 リリューは、黙ってこの状況を見ていた。

 コーの力を使うことで、より旅の安全を確保したいと考えるホックス。

 彼女の力を、「利用」することを考えたくない──モモ。

 さて。

 リリューは、ハレを見た。

 彼が、どういう決断を下すか、見ることにしたのだ。

「月の者の魔法について、知っていることを少し話そう」

 ハレは。

 ホックスの意見について、肯定も否定もしなかった。

 代わりに、必要な情報を頭の中から引き出すのだ。

「月の魔法は…使えば使うほど、老いてゆく」

 声は、静かだった。

「逆に言えば、魔法を使わない限り、老いは限りなく遅いと思われる…そして、歌は魔法に含まれないようだ」

 それについては、いい証拠がいる。

 トーだ。

 リリューの子供の頃から、まったく年齢の分からない楽士。

 彼は、ほとんど魔法を使っていないのだろう。

「それとおそらく…コーは、月の魔法の使い方をきちんと教えられていない」

 最後の言葉に、ホックスが眉間にシワを寄せた。

 この中の、誰も使い方を知らない魔法を、どうやって利用できるのか。

 リリューは、ハレがそういう結論へと彼を導いているのかと思った。

 だが、彼はホックスの結論を待つ。

 この貴族の子息は、じっくりと考える男で、すぐに言葉を発することはない。

 顰めたままの眉を解くことなく、彼は二度ほど唇を開き、閉じた。

「では…では、私が使い方を調べましょう」

 そして、思いもかけない結論を、引っ張り出してくるではないか。

 ハレは、口元に微笑みをたたえたように見えた。

「コーと、よく話をするといい」

 その唇は。

 静かに、だがおそらくホックスにとっては、意外な返事をしたのだ。

 貴族のホックスが、言葉もおぼつかない少女と、何の話をするのか、と。

 だが、リリューにとって、その言葉はとても心地よいものだった。

 コーに、協力してもらえるよう説得できなければ。

 ホックスの希望は、かなわないという意味に聞こえたのだ。
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