アリスズc

 既に、飛脚は前の町で都に向けて走らせた。

 テルは、ようやく領主のいる町に到着し、次の準備に入る。

 自分の後にここに来るであろう、ハレとオリフレアに情報を残すためだ。

 イデアメリトスの反逆者のあの女は、既に死んだかもしれない。

 だが、その反逆を一人で行った、とは言い切れないのだ。

 傍系のイデアメリトスは、すべて家系を記録されている。

 あの女の身内も、反逆に加担しているのかもしれない。

 そうであれば、ハレもオリフレアも同じ危険に遭う可能性が高かった。

 領主との挨拶もそこそこに、テルは部屋を借り受け、手紙をしたため始める。

 ノッカーを鳴らして、ヤイクが入ってきたのにも、すぐには気づけなかった。

「もし、たくさんの反逆者がいた場合は…太陽御自らが出ていらっしゃるでしょうね」

 テルが何をしているのかなど、彼にはお見通しなのだろう。

 手紙の内容を見るまでもなく、ヤイクがしゃべり始めた。

「もしそうなれば…イデアメリトスの正統な血筋は、すべて都から引っ張り出されることとなりますか」

 ふぅむ。

 彼は、考え込む。

 だがそれは、考え込んでいるフリだ。

 ただ単に、テルに問題提起をしているだけ。

 分かっている。

 イデアメリトスの血そのものに、どれほどの危険が迫っているか、彼に認識させたいのだ。

 もしも、父の身に不幸なことがおこれば、この国の太陽が不在になってしまう。

 父の代で、旅を成功させたのは父のみだった。

 既に祖父は髪を切り、老いた身ながら国を放浪している。

 叔母は、もういない。

 長い髪で、自由に魔法を使える人間は、実質父だけなのだ。

 これが、どれほど危ういことか。

 もしも傍系全員が敵に回って、太陽の地位を簒奪にかかったならば、それを食い止めることは難しい。

 400年続いた太陽の国が、月のせいではなく、身内に脅かされているのである。

 太陽がさんさんと輝く世界で──日陰で生きることを余儀なくされた人間たちは、月の人間たち以外にも、確かにいたのだ。

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