アリスズc

 テルは、しばし領主宅にとどまった。

 数日遅れで、ハレがやってくると思ったのだ。

 だが。

 ハレは、来ない。

 さすがにしびれを切らし、旅立とうと思いかけた六日目。

 到着したのは──オリフレアだった。

「何で、まだここにいるの?」

 のろまな生き物を見る目で、彼女は容赦なくテルに言葉を投げつける。

「ハレに…会ったか?」

 問いには答えず、逆に問いかけた。

 オリフレアが先に到着したということは、どこかでハレを追い抜いたということだ。

「会ったわよ…それがどうかした?」

 不機嫌に輪をかけ、彼女は大上段に構える。

 とりあえず、ほっとした。

 ハレの身に、何かあったわけではないようだ。

 もしそうであれば、さすがのオリフレアも黙ってはいないだろうから。

 彼女たちは、到着したばかりだ。

 見れば、オリフレアのお付は、年齢が高めの者が多い。

 新しく雇った人間ではなく、昔から使っている者たちを連れているのだろう。

 武官役らしいフードの男には、ただならぬ気配があった。

 男のまとう光に、何かひっかかりを覚えたが、この時のテルは、それを気にしている余裕はなかった。

 もう一人の男も、文官役とは思えない。

 明らかに、戦える者だ。

 旅を成功させたところで、彼女のお付が何かの地位になることはない。

 だから、武官役二人にして、旅の成功率を上げようとしたのだろう。

 エンチェルクと余り年の変わらない女性の世話役が、彼女のマントを受け取っている。

「疲れてるところ悪いが、ちょっと話がある」

 やっと一息つける。

 そんな気持ちの彼女に、嫌な話を聞かせなければならない。

「とても大事な話だ」

 明らかに、オリフレアの機嫌が悪くなったが、テルは表情を緩めることなく彼女を見た。

 ハレとは、別の意味で。

 オリフレアには、この大事な話を聞いてもらわなければならなかった。
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