アリスズc

 ハレとは別の意味で。

 オリフレアと二人きりになった部屋で、テルは彼女を振り返った。

「そこに、手紙がある…読んでくれ」

 言葉で説明すると、おそらくオリフレアは途中で何度も口を挟んでくるだろう。

 だからテルは、書いておいた手紙を読ませることにした。

「これ、テルの書いた手紙じゃない…何でこんなまどろっこしい…」

 ぶつぶつ言いつつ彼女は紙を広げ、そして、黙り込んだ。

 表情が変わっていくのを、じっと見ていた。

 テルは、じっと、じっと見なければならなかったのだ。

 オリフレアは──傍系だった。

 母が、旅を成功させたイデアメリトスだったから、彼女にも旅の権利があっただけで。

 いや、本当ならばなかった。

 ないものを、父の力がありにしただけなのだ。

 そんな複雑な血を持つ彼女は、自分の母を憎み、そして手のつけがたい癇癪も持っている。

 要するに。

 テルは。

 オリフレアという存在を、危険視したのだ。

 普通であれば、そんな心配はしなかっただろう。

 だが、傍系の反逆者が出た今、オリフレアがそちら側に行ってしまう危険性もある。

 もし、彼女が向こう側に行けば、これから彼女との殺し合いの旅になる可能性が高いのだ。

 テルは、オリフレアを見た。

 手紙を読み終わった彼女が、顔を上げ──テルを見るその目を見た。

 青ざめてなどいない。

 それどころか、獲物を見つけた猛獣の色をたたえ始めた。

「テルの考えてることなんか、分かってるわよ」

 癇癪を持っているが、オリフレアは馬鹿ではない。

「私に…直系側にいて欲しいんでしょ?」

 主導権を握ったとばかりに、彼女は口元に笑みを浮かべる。

 ふぅと、テルはため息をついた。

「勘違いするな…」

 その主導権に、テルは片手をかけ。

「傍系側に行ったら、俺がお前を全力で倒す、と言ってるんだ」

 自分の方へと、ぐいと引き戻したのだった。
< 111 / 580 >

この作品をシェア

pagetop