アリスズc

「何で…倒せると思ってるの?」

 オリフレアは、目をギラつかせながら、テルを睨む。

 奪われた主導権を、もう一度引き戻そうと思っているのだ。

「倒さなければ…俺が死ぬからだ」

 主導権に足をかけたまま、テルは真っ向から言葉を吐く。

 お互い、魔法を使える。

 テル対オリフレアになったならば、もはや成人の旅もへったくれもない。

 そこにあるのは、魔法を使った全力の殺し合いだけなのだ。

「あはは…そうね。確かにそうだわ…私が死ななきゃテルが死ぬ…まったくそうよね」

 愉快そうに彼女は、大きく笑い声をあげた。

「そういう馬鹿正直なところは…嫌いじゃないわよ」

 オリフレアは、笑いをそのまま窓の外に向ける。

「テル…」

 ふふふ、と彼女は悪い笑みを浮かべた。

 何かを決意したような、悪だくみに満ちた声に聞こえ、テルは嫌な予感を覚えたのだ。

「テル…ひとつ約束するなら、私はこっち側にいてもいいわ」

 見た目と裏腹の、大人の目。

 それが、自分に向けられる。

 ずいっと近づく、大粒の黒真珠の瞳。

「私を…太陽妃にして」

 テルは、その双眸を見返した。

 前々から、彼女はそんなことを言っていた。

 実際、それほど頓狂な話ではない。

 旅を成功させて戻れば、彼女には十分その可能性はあった。

 テルかハレか、太陽になる方の妻にしろ。

 そう言っているように聞こえるが──テルには、少し違う響きに聞こえた。

 彼女は。

 自分を見ているのだ。

 この、テルタリウスミシータを。

「オリフレアリックシズ…おまえ」

 テルは、彼女を見つめたまま、ひとつだけ聞いてみた。

「おまえ…俺のことが好きなのか?」

 返事は──大癇癪だった。
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