アリスズc

「随分と、盛大なお話し合いだったようですね」

 ヤイクの皮肉は、頬の傷にしみる。

 大癇癪をおこしたオリフレアに、ひっかかれたのだ。

 これは、しばらく消えそうにない。

「女は、難しいな」

 心からの本音を、テルは口にしていた。

「そう理解されたのなら、殿下ももう大人ですよ」

 ヤイクが、それに楽しそうに笑う。

 女に関しては、百戦錬磨との噂も高い彼に言われるのも、微妙な気分だった。

「だが…とりあえず、オリフレアはこちら側だ」

 テルは、それを確信した。

 彼は、オリフレアに宣言したのだ。

『俺が太陽になったら、いくらでももらってやる』、と。

 ハレが太陽になったなら──知らん、というところだが。

「ええ、ちゃんと聞いてましたよ」

 ヤイクが、いけしゃあしゃあと答えるではないか。

 部屋の中は二人きりだったは、扉のすぐ外にでもいたのだろう。

 抜け目ない男だ。

「私としても、是非殿下には太陽になって欲しいものです…よい婚約者もいらっしゃるし、言うことなしですね」

 いやあ、めでたきかなめでたきかな。

「うまくいけば、叔父も喜びます」

 憎らしいヤイクのいいようではあったが、つけたされた言葉が気になった。

 彼の叔父と言えば、父の旅の同行者であり、賢者のはずだ。

 何故、そこでその男が出てくるのか。

「いやあ、旅に出る直前、ついに叔父に男の子が生まれたのですよ。喜びにむせび泣いてましたよ、あの叔父が」

 ああ。

 ことごとく生まれる子が娘という、賢者のことを思い出した。

 そうか、男が生まれたのか。

 旅立ちのごたごたで、そのような情報まで気に留める余裕はなかったのだ。

 ということは。

 跡継ぎと決まった方の子が出来た場合、喜んで息子を側仕えに差し出すことだろう。

 やれやれ。

 旅そのものでさえ成立が危ぶまれているというのに──呑気な話もあったものだと、テルは天を仰いだのだった。
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