アリスズc

 一番、重く強い風を呼ぶ。

 風と風はぶつかり合い、ねじり合い、いくつもの竜巻となった。

 風が、容赦などするはずがなかった。

 風を生み出す、テルの周辺わずかを除いて、ことごとく竜巻はなぎ払ってゆく。

 三人の従者は、彼の足にしがみついている。

 前回、イデアメリトスの反逆者と遭遇した時、彼らは素晴らしい勇気を見せた。

 テルの心が、大きく震えた日だった。

 その思いに、いま自分にしか出来ないことで応えるのだ。

 自分のため、従者のため、オリフレアのため、ハレのため──この国の未来のため。

 竜巻に空に放り出される人間たちは、そしてこの後。

 地に吸い寄せられて叩きつけられる。

 いや、猛烈な竜巻の力により落ちる前に、全身の骨は砕けていることだろう。

 痛みなど、分からなくなっているに違いない。

 この、強い魔法を見せ付ける。

 太陽の血筋を根絶やしにしたいと思っている連中に、この圧倒的な力を見せ付けるのだ。

 自分たちが、弱く小さくなってしまったのだと、思い知れ。

 北の極地の一族のように、静かに生きればよいのだ。

 たとえ、イデアメリトスを根絶やしにして国を手に入れたとしても、その弱さでは、とてもこの巨大な国など治めることは出来ないのだから。

 風がやみ。

 人の雨が降る。

 それを起こしたテルの周囲に、人だったものが落ちてくるのだ。

 ビッテは、彼を抱きかかえるようにして、その雨から守る。

 テルは、少しの間呆然としていた。

 呆然と出来る時間があるほど、もはや敵などどこにもいないのだ。

「大丈夫…ですか?」

 ビッテの声に、ようやくテルは奥歯を強く噛み締めた。

「大丈夫だ」

 強い声で、そう答える。

「さあ…先へ進もう」

 この、屍の山を築いたのは、自分。

 これが、イデアメリトスの力であり、国を治める一番深い力。

 テルは──それをしっかりと噛み締めたのだった。
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