アリスズc

血なるもの


 テルもオリフレアも、順調に出発したという。

 ようやく領主宅に入ったハレを待っていたのは、テルから残された手紙だった。

 弟らしい、しっかりとした筆跡のそれは、彼の眉間に陰を落とす。

 よく。

 だが、ハレは深く安堵してもいたのだ。

 よく生き延びたな。

 同じ力を持つイデアメリトス相手に、テルはあの小さな身で勝ったのである。

 魔法相手に、剣や刀ではまともにやりあえない。

 距離を取って戦うことを、基本とするからだ。

 さすがだな。

 弟とその従者たちの力に、ハレは感服した。

 誰ひとり失わず、また旅も失敗していない──それどころか、魔法も使わずにすんだとある。

 逆に言えば。

 イデアメリトス一人倒すことは、普通の人間にも、実はそう難しくないのだと言われているようなものだ。

 事実。

 過去、旅を失敗した親族も多くいるのだから。

 だが、敵が増えたことは間違いない。

 月と反逆者。

 どちらか片方でも厄介だというのに、魔法を使える二つの勢力が確かに彼らを狙っているのだ。

 ハレは、手紙をしたため始めた。

 未来のテルに向けた手紙だ。

 飛脚を使えば、そのうちテルに追いつくだろう。

 次の領主宛てにする。

 もし、次の領主が受け取った時に、既にテルが出発していれば、次の領主へ送ってくれるだろう。

 書くことは、いろいろある。

 その中でも、月の娘を保護したことを書かなければならない。

 とばっちりが、テルにも行くだろう。

『私の兄弟へ』

 愛や親しみの言葉は、テルには必要ない。

 テルも使わない。

 それが許される──世界でたった一人の相手だった。
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