アリスズc

 町の市場は、沢山の情報で溢れている。

 同じくらい沢山の荷物を抱えながら、桃は一人で市場を回っていた。

 本当は、リリューに買い出しを手伝って欲しかったが、コーをホックスのところに預けるのが不安で、従兄に後を託したのだ。

 少なくとも、桃は自分の身ひとつくらいなら自分で守れる。

 そんな彼女の耳に、不穏な噂が聞こえてくる。

「木に吊り下がってたらしいぜ」

「空から降ってきたって聞いたぞ、俺は」

 何だか、生臭い匂いのする話だった。

 桃は、無意識に耳に神経を向けていた。

 この近辺に、不穏な事件が起こっているというのならば、自分たちの旅に障る可能性もある。

 桃は、リリューほどの剣の腕もなく、ホックスほどの頭の良さもない。

 だからこそ、自分に出来ることを一生懸命やるしかなかった。

 買物もする。

 必要な情報も手に入れて帰る。

 不穏な噂の断片を総合すると。

 この町の北の街道で、多くの人が死んでいたそうだ。

 その死に方もまともではなく、人の力では到底無理な高いところに吊られていたり、四肢が引きちぎられていたり。

 この町に駐留している兵士が、検分と片づけに向かったという話だ。

 10人や20人ではないという話から、テルやオリフレア一行が倒れたということではないのだろう。

 情報を、頭の中で組み立てようとしかけた矢先。

「ははーん」

 楽しげな老人の声が、すぐ側から聞こえてきて、桃はどきっとした。

 反射的に振り返ると。

 そこには、珍しい男が二人立っていた。

 珍しいというのは。

 二人とも、頭を綺麗にそりあげていたのだ。

 一人は老人。

 もう一人は。

 あれ?

「随分派手に使ったようだな」

 桃の怪訝の向こう側で、老人は愉快に呟く。

「そう、なんですか」

 もう一人。

 見覚えのある、髪のない40歳ほどの男。

 ええと、ええと。

「リクパッシェルイル…さん?」

 母の──戦友。
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