アリスズc

 モモが──すさまじい客を連れてきた。

「おじい様ではありませんか」

 ハレは、驚き余って苦笑になってしまう。

 まさか、こんな旅先の領主宅で、放浪中の祖父と再会するとは思っていなかった。

 正直。

 もう、二度と今生で会うことはないだろうと、どこかで思っていたのだ。

 祖父の年は、既にいつ亡くなってもおかしくないものだったし、彼は自分を守ることの出来る髪を、ここまで落としてしまったのだから。

 死に場所を探すために、旅に出たのではないかとハレは思っていた。

「お前がここにいるということは…あれは弟の仕業か」

 だが、祖父は年老いてなお衰えているようには、とても見えず、若かりし時と変わらない笑みを浮かべるのだ。

 父とは違う、少し人の悪い笑み。

「弟は、魔法を使ったぞ」

 その情報をハレに与えながらも、祖父は彼の反応を見ようとしている。

 イデアメリトスの兄弟という概念は、ハレたちの時代に劇的に変わったため、前の世代とは一線を画していた。

 そんな古い概念で、祖父は自分を観察しているのだろうか。

「私も、もうとっくに使いましたよ」

 ハレは、その視線を軽くかわした。

 かわしながら、逆に祖父の反応を観察するのだ。

「はっはっは…食えんな、お前は」

 声を出して、祖父は笑った。

 本当に、愉快でしょうがないように。

「ちょうどよかった、おじい様…テルの手紙を読んでいただけませんか?」

 父には、既にテルが飛脚を走らせている。

 祖父もまた、イデアメリトスの直系として、知っておくべきことだとハレは思ったのだ。

 これほど年老いてから、身内の反逆の話など、聞きたくもないだろうが。

「どれ…」

 彼は手紙を受け取り、開いた。

 表情は変えなかった。

 太陽でいる間に、祖父はそうあらねばならなかったのだ。

 手紙から顔を上げ、彼は自分を見た。

 まっすぐな視線の中に、微かな翳りを感じる。

「最悪の心当たりなら、ひとつだけあるな」

 口調は尊大ではあったが、苦さがたっぷり含まれていた。

 やはり。

 年老いた祖父の、心を痛めてしまったようだ。
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