アリスズc

 リクパッシェルイル。

 飛脚を立案した母を、陰ひなたに支えてくれたのが、この男。

 桃は、彼と向かい合って座りながらも、何から話していいかよく分からなかった。

 聞けば、もう一人の老人は、夕日だというではないか。

 髪を切ってなお生きていた太陽は、そう呼ばれるらしい。

 何故、そんな男とたった二人で旅をしていたのだろう。

 他の、一切の護衛もつけずに。

「ウメは元気ですか?」

 リクは、静かに語りかけてきた。

 その声に、桃はハッとする。

「はい、元気です」

 旅立って結構な日数がたった。

 でも、きっと母は元気だ。

 桃は、それを疑ってはいない。

 エンチェルクはいないが、母の側には頼りになる伯母がいるのだから。

 深みのある瞳が、自分に向けられる。

 自分の向こうに母を見ているのか、はたまた桃自身に思うところでもあるのか。

「何処へ、向かわれているんですか?」

 当たり障りのなさそうな話が、ようやく自分の唇から出てくれた。

「さあ…あの御方が行きたいところに行くだけですよ」

 夕日のことだろう。

 本当に、流浪の旅路にいるらしい。

「あの…つかぬことをお伺いしますが…何故あの御方と旅を?」

 聞いていいのかなぁ。

 そう戸惑いながらも、やはり我慢が出来なくなった。

 おそるおそる、言葉に乗せて見る。

 すると。

 リクは、薄く微笑んだ。

「昔々のご縁のおかげです」

『昔々』という言葉に、彼はとても深い心をこめたように思えた。

 遥か昔の、とでも言わんばかり。

 わ、分からない。

 謎かけのような言葉の向こうに、この男の何かがあるのだろう。

 だが、桃が手を伸ばすには、遠すぎるもののようだった。
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