アリスズc

 リクとの短い対面が終わって。

 桃は、コーを迎えにホックスの部屋へと向かった。

 何だかんだで、随分長い時間たった気がするが、コーは大丈夫だろうか。

 と、二階の廊下に差しかかった時、彼女は不思議なものを見たのだ。

 ホックスの部屋の前で、立ち止まっている人間がいる。

 使用人のようだ。

 用事でもあるのだろうかと思いながら近づくが、使用人は、そのまま止まっている──ではなかった。

「えっ」

 桃は、驚きの声をあげてしまう。

 その使用人は、石のように固まっていたのだ。

 はっとして、彼女は急いでノッカーを叩く。

 この現象には、見覚えがあった。

 桃自身が、これを食らったことがあるのだ。

 ノッカーに返事はない。

「リリュー兄さん? コー?」

 不安になって、性急な声で呼ぶ。

「…桃?」

 返事をしたのは、コーの声。

 大慌てで扉を開けた桃が見たものは── バルコニーの方からとことこと戻ってくる白い髪の少女の姿だった。

 そして。

「………」

 何と言えばよかったのだろうか。

 桃は、自分の見た光景に、頭を抱えたくなった。

 ソファの辺りにいる二人の男が──見事に固まっていたのだ。

 勿論、それはホックスとリリュー。

「コ、コーがやったの?」

 抱きついてくる彼女を引きはがしながら、桃はその瞳を覗きこんだ。

「だって…ホックスタンディーセム…うるさい」

 怒られる気配を察してか、コーがむーと表情を曇らせた。

 ああ。

 外の使用人は、たまたま通りかかってとばっちりをくらったのか。

「コー…とにかく、早く解きなさい」

 いつの間に、こんな技を覚えたのか。

 そう考えかけて、すぐに思い当たった。

 既に、コーはこの技を見たではないか、と。

 あの聞こえない音は、彼女の耳にはちゃんと届いていたに違いない。

 歌を簡単に覚えたように──コーは、あの音もちゃんと覚えていたのだ。
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