アリスズc

 祖父は、父へ一通の手紙をしたためた。

 その手紙が、供の男に手渡される。

 供。

 夕日という立場を考えると、たった一人の男を供にしているのは、とても頼りなく感じられる。

 モモやウメと縁のある男で、リクパッシェルイルという名らしい。

 体術や剣術に、秀でている様子もない。

 こんな二人旅で、魔法も使えない身でありながら、よくこれまで無事だったものだ。

「おじい様、そちらの方とはどんなご縁で?」

 ハレの問いかけに、祖父はニヤっと笑いながら、リクのつるつるの頭を叩いた。

「同じ頭の縁だ」

 人の悪い笑み。

 言葉の裏側に隠した尻尾だけを見せて、ハレを釣ろうというのか。

 髪のない頭。

 たとえ、傍系のイデアメリトスであったとしても、こんな頭を望んでする者はいない。

 この国において、髪とは非常に大きな意味があるのだから。

 その大きな意味のある髪を、あえて捨てる。

 太陽を憎んでいるか、この国のまつりごとに恨みがあるのだろうか。

 だが、そうは見えない。

 でなければ、こんな風に祖父と旅をするはずがない。

 では。

「もしかして…」

 ひとつの心当たりに、ハレはリクという男を見た。

 その頭を。

「髪を伸ばせないのですか?」

 言葉に──返答は、なかった。

 だが。

 答えないことこそ、まさしく答えているも同然で。

 わずかな疑いが、確信へと色を変えた。

「そう…でしたか。前の世代でご縁があったのですね」

 ハレは、胸が熱くなった。

 彼は。

 彼には──イデアメリトスの血が、混じっているのだ。
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