アリスズc

 リクという男には、イデアメリトスの血が混じっている。

 イデアメリトスといっても、人間だ。

 都に住んでいるだけではなく、神官職につき神殿に住む者もいる。

 そして。

 どのような過程があったかは別として、結果的にイデアメリトス以外の相手と子を成したのだ。

 何代前かは、分からない。

 だが、この男には、色濃くイデアメリトスの血が出てしまったに違いない。

 色濃く。

 そう。

 リクはきっと──魔法が使えるのだ。

 成長の途中で、彼は自分の力に気づいたのだろう。

 その後、リクはどうしたか。

 見ての通りだ。

 決して、魔法を使わないと決めたのである。

 その誓いの証しが、その頭。

 旅を続ける身であれば、すぐに髪は伸びるだろう。

 それにも関わらず、これほど綺麗に剃りあげているのは、どんな状況であれ手入れをしているからなのだ。

 ハレは、そこに美しい志を見た。

 強い力を持っていてなお、己を律している素晴らしい男を見た。

 祖父が、気に入るはずだ。

 彼は、決して太陽を裏切らない。

 何よりも、その頭が証拠だった。

「ついこないだまで、こいつは頭を隠していてな」

 ぺんぺんと、石でも叩くように祖父は彼の頭を叩く。

 リクは、黙ったままその仕打ちを受けていた。

「誇るべき頭だから、出せと言ってやったら…やっと観念したようだ」

 本当に。

 ハレは、本当にその通りだと思った。

「ええ…誇るべきです」

 反逆するイデアメリトスがいる。

 だが、決して裏切らない者もいる。

 ハレには、それがとても頼もしく思えたのだった。
< 125 / 580 >

この作品をシェア

pagetop