アリスズc

「コー…」

 桃は、目の前にコーを座らせてお説教をしていた。

 勿論、正座で、だ。

 だが、桃は自分も同じ態勢でぴくりとも動かないまま、彼女に話し続けていた。

 足の痛さにもじもじしながら、コーは話を聞いている。

 そんな姿を見ていると、母にいつもお説教されていた自分を思い出す。

 母も、自分に対してこんな心配な気持ちだったのだろうか。

 父に会いたいと、桃はずっと願っていた。

 貴族であり領主でもある父に会った時に、傷ついたり恥をかいたりしないよう、母もきっと懸命だったのだろう。

 そんな説教の最中。

 ノッカーが鳴った。

「誰か来た!」

「コー」

 コーが、いち早く反応するが、桃が軽く睨むとまた小さくなる。

 ハレだった。

「たっぷり、モモにしぼられてるようだね」

 床に正座して向かい合う二人の姿を見て、彼は苦笑している。

 既に、事情は呑み込んでいるようだ。

 動けるようになったホックスが、報告したのだろう。

「ハレイルーシュリクス…」

 コーが、助けを求める目を彼に向けた。

「コー…コーは、とても強いんだよ」

 ハレは、正座をする彼女の前に膝をついた。

 そして、穏やかな瞳のまま、こう言うのだ。

「たくさんの人の、命を奪えるほど強い」

 どきっとする言葉を、ハレは何のためらいもなく口にした。

 テルがやったであろう、あの市場での噂を思い出したのだ。

 コーは、彼の言葉を吸い寄せられるように聞き入っている。

 魔法というものの心得を、ハレは骨の髄から叩きこまれているに違いない。

「だから、コーはたくさんの人を愛さなければいけないんだよ…たくさんたくさん愛したら、命を奪うより優しくしたいと思うからね」

 ゆっくりと語りかけられる音に──コーは、こくりと頷いた。

 よしよし。

 コーよりも小さい子供の姿をした男は、優しく彼女の頭をなでてあげた。

 桃は、ほっとしたのだ。

 魔法のことで、コーを理解できる人がいてくれて、本当によかった、と。
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