アリスズc

 領主宅を出発したハレたちは、街道で兵士たちの後処理に出くわした。

 余りに死体の数が多く、片付けが追いついていないようだ。

「みな、月の者ですね…」

 小さくリリューが囁く。

 彼は、剣の形で分かるという。

 そうか、と小さく答えた。

 三日前、テルたちは出発し、二日前にオリフレアが出発したと領主から聞いている。

 ハレの到着を、ぎりぎりまでテルは待っていた、と。

 その長い滞在が、これほどの月の人間を集めたのだろう。

 テルも、ある程度予想はしていたはずだ。

 そして。

 一番、効率のいい魔法の使い方を選んだ。

 一網打尽、という。

 例の魔法を使う月の男がいなかったのだけは、間違いないだろう。

 足を斬られていたために、この戦いに間に合わなかったのかもしれない。

「桃、どうしたの? 悲しいの?」

 後ろからコーの声が聞こえてきて、ハレは振り返った。

 彼女が、静かな面持ちで手を合わせている。

「悼んでいるのよ、コー」

 静かな静かなモモの声に、コーはぴくっと頬を震わせた。

 小動物が髭を震わせて、雨の降る予感を感じるかのように。

「───」

 その唇から。

 夜明けの歌が、溢れ始めた。

 いつものコーの歌い方ではない。

 葬送の、朝の歌。

 世界が一瞬にして、青ざめた夜明け前の景色に変わった気がする。

 歌の聞こえた兵士たちも、その錯覚にかられたのか、キョロキョロと周囲を見回す。

 青い光が、ただの肉の塊と化した死体に降り注ぐ。

 その光に迎えられるように、身体から青白い光が吸い寄せられてゆく。

 誰もが、動けなくなった。

 誰もが、その光景に目を奪われていたのだ。

 葬送の歌は、光を集めながら空へと舞い上がってゆく。

 ハレもまた、目を奪われていた。

 その美しい──コーの横顔に。
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