アリスズc

 リリューが夜の散歩を終え、あてがわれた部屋に戻ろうとしたら、上階が騒がしいことに気づく。

 上階と言えば、ハレやホックス、そしてモモたちの部屋がある。

 気になって昇ると──ホックスがいた。

「いいじゃないか…ちょっとくらい」

 彼の向こう側にいるのは、若い貴族風の男。

 この家の子息だろうか。

「ここは、女性の部屋です」

 ホックスは、明らかに男を咎めている。

 見れば、扉が半分開いていた。

 どうやら、モモとコーの部屋のようだ。

 しかし、扉を開けたまま騒いでいるというのに、モモが出てこない。

 ということは。

 彼の従妹は、部屋にはいないということか。

「歌の子が気になっただけだよ。モモは、いま応接室だろ?」

 この程度の好奇心で、どうして責められるのか、さっぱり分かっていない悪びれない様子。

「女性が一人で残っていると分かっていて、不作法に訪問するのが、領主になられる方のなさることですか」

 ホックスが、頑張っている。

 とにかく、学問だけをしたがっている男だった。

 周囲の人間など、基本的にただの空気。

 そんな男が、旅の中で変わってきたのだ。

 こうして、よその貴族に学問以外で弁舌をふるうほど。

「ああうるさいね、君は。私が既に領主なら、そんなことも言わないだろうに。早く領主になりたいものだ」

 正論を真正面からぶつけられて、男はどんどん不機嫌になってゆく。

 ああ。

 リリューは、ようやくつながった。

 我ながら、鈍いものだ。

 この男か。

 この男が、『彼女』の言っていた『若様』か。

 リリューは。

 一歩、踏み出した。

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