アリスズc
#
リリューが夜の散歩を終え、あてがわれた部屋に戻ろうとしたら、上階が騒がしいことに気づく。
上階と言えば、ハレやホックス、そしてモモたちの部屋がある。
気になって昇ると──ホックスがいた。
「いいじゃないか…ちょっとくらい」
彼の向こう側にいるのは、若い貴族風の男。
この家の子息だろうか。
「ここは、女性の部屋です」
ホックスは、明らかに男を咎めている。
見れば、扉が半分開いていた。
どうやら、モモとコーの部屋のようだ。
しかし、扉を開けたまま騒いでいるというのに、モモが出てこない。
ということは。
彼の従妹は、部屋にはいないということか。
「歌の子が気になっただけだよ。モモは、いま応接室だろ?」
この程度の好奇心で、どうして責められるのか、さっぱり分かっていない悪びれない様子。
「女性が一人で残っていると分かっていて、不作法に訪問するのが、領主になられる方のなさることですか」
ホックスが、頑張っている。
とにかく、学問だけをしたがっている男だった。
周囲の人間など、基本的にただの空気。
そんな男が、旅の中で変わってきたのだ。
こうして、よその貴族に学問以外で弁舌をふるうほど。
「ああうるさいね、君は。私が既に領主なら、そんなことも言わないだろうに。早く領主になりたいものだ」
正論を真正面からぶつけられて、男はどんどん不機嫌になってゆく。
ああ。
リリューは、ようやくつながった。
我ながら、鈍いものだ。
この男か。
この男が、『彼女』の言っていた『若様』か。
リリューは。
一歩、踏み出した。
リリューが夜の散歩を終え、あてがわれた部屋に戻ろうとしたら、上階が騒がしいことに気づく。
上階と言えば、ハレやホックス、そしてモモたちの部屋がある。
気になって昇ると──ホックスがいた。
「いいじゃないか…ちょっとくらい」
彼の向こう側にいるのは、若い貴族風の男。
この家の子息だろうか。
「ここは、女性の部屋です」
ホックスは、明らかに男を咎めている。
見れば、扉が半分開いていた。
どうやら、モモとコーの部屋のようだ。
しかし、扉を開けたまま騒いでいるというのに、モモが出てこない。
ということは。
彼の従妹は、部屋にはいないということか。
「歌の子が気になっただけだよ。モモは、いま応接室だろ?」
この程度の好奇心で、どうして責められるのか、さっぱり分かっていない悪びれない様子。
「女性が一人で残っていると分かっていて、不作法に訪問するのが、領主になられる方のなさることですか」
ホックスが、頑張っている。
とにかく、学問だけをしたがっている男だった。
周囲の人間など、基本的にただの空気。
そんな男が、旅の中で変わってきたのだ。
こうして、よその貴族に学問以外で弁舌をふるうほど。
「ああうるさいね、君は。私が既に領主なら、そんなことも言わないだろうに。早く領主になりたいものだ」
正論を真正面からぶつけられて、男はどんどん不機嫌になってゆく。
ああ。
リリューは、ようやくつながった。
我ながら、鈍いものだ。
この男か。
この男が、『彼女』の言っていた『若様』か。
リリューは。
一歩、踏み出した。