アリスズc

「夫人も、子息には手を焼いているだろうね」

 ホックスとリリューを部屋に招き入れながら、ハレは苦笑した。

 自分より上の人間には、なまじ外面がよいので分かりづらいが、あれでは使用人にさぞや嫌われているだろう。

 血のつながらない親子でもあり、男親がいないということもあり、夫人は強くクージェを叱れないのかもしれない。

「最初は、こっそり女性の部屋に、入ろうとしていたのです」

 ホックスも呆れたように、ため息をつく。

 モモは、テイタッドレック卿の子息と話をするために、応接室に行ったらしい。

 そして、一人残っていたコーは、外の騒ぎなどなんのその。

 ぐっすりと眠りこんでいた。

 ホックスがクージェを止めなければ、ひどいことになっていたかもしれない。

「彼が領主になると考えると…頭の痛いことですね」

 ホックスは、本当に憂慮しているようだった。

 これまで、いくつもの領主を経由してここまで来た。

 だからこそ、余計に比較が出来るのだ。

 いや、よそと比較するまでもない。

 ここには、イエンタラスー夫人という、きちんとした女性領主がいるのだから。

「もし、彼が男でなければ…捧櫛の神殿まで連れて行くのだけどね」

 ハレが言うと、本当にホックスは驚いた顔を向けた。

「あんな男と、一緒に旅をしてもいいと考えられるのですか?」

 そんな彼の表情の方が、いまのハレにとっては愉快なことで。

 最初の頃と比べると、随分と表情豊かになったように思えた。

「苦難を乗り越えれば、人は変わる…そうだろう?」

 ハレは。

 ホックスと、リリューを交互に見た。

 ここまで、往路の半分の旅路は、決して易しいものではなかった。

 死を、ほんのそこまで感じたこともあった。

 だからこそ、みな変わってきたのだ。

 頭でっかちなだけだったホックスが、領主の後継に憂慮するようになるほど。

「まあ…そうです、が」

 彼は、想像の中だけでもクージェと同行するのは、御免のようだ。

「一応…出来る限りのことはしておこう」

 ハレは。

 一筆したためることにした。
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