アリスズc

 名残惜しく、太陽の木の側で一泊した翌日。

 ハレたちは、まだ朝のうちに次の町に着いた。

 その小さな町の小さな広場を、いっぱいに飾り立てている最中で。

 これから、ここでお祭りがあるというのだ。

 都のそれとは違い、つつましいがみな幸せそうに祭りの準備にいそしんでいる。

「お祭り…歌にある!」

 コーは、自分の知っている言葉と出会ったことが、とても嬉しそうだ。

「旅の人たちも、よかったら楽しんでいきなよ」

 気さくな村人に声をかけられる。

 コーが、心の底から楽しみを隠せない瞳で──ハレを見ていた。

 彼女は、参加したくてしょうがないようだ。

 だが、ハレが頷かなければ自分の望みが叶わないのだと、彼女はもう理解している。

 コーは、どんどん自分の本当の年に近づいているのだ。

「そうだね…祭りを見て行こうか」

 ハレは、見るために旅をしている。

 神殿には、間に合う程度にたどり着けばいい。

 急ぐことはないのだ。

 木太鼓の乾いた音が、村を駆け抜けてゆく中、ハレは通り過ぎる村人に声をかけた。

「何の祭りですか?」

 小さな町の、小さな祭り。

 国にとっては、何の日でもない今日は、この町にとって何か大事な日。

 母に手を引かれる子どもが、元気よく振り返った。

「『太陽さま』のお祭りだよ!」

 どこかで、聞いたことのあるような名前だ。

 ハレが、のんびり考え込んでいる間に、モモは既に村の女性と話しこんでいる。

 そんな彼女が、たたっと駆け戻ってくる。

「ええと…むかしむかし」

「もう少し、手短に頼む」

 モモののんびりとした言葉の始まりを鋭く切ったのは──ホックスだった。
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