アリスズc
∴
「素晴らしい演説でした」
男の話が終わり、広場は村の素朴な楽隊の演奏が始まった。
料理や果物がふるまわれ、踊り出すものもいる。
ハレがそう声をかけると、男は驚いた顔をした。
「あなた方のような旅人が通るのは、これで三組目です」
そして、残念そうに笑うのだ。
「もしやと思って鼻を効かすのですが、やはりまだ20年では実はなりませんね」
ああ。
彼は、テルとオリフレアの一行のことを言っているのだろう。
その度に、男は匂いを嗅ぎに行ったのか。
それほどに、昔のことが忘れられないのだ。
「太陽の木…らしきものを見ましたよ」
あの木の場所から町までの距離、そして男の話を噛み合わせると、つじつまが合う。
昨日、コーは一生懸命木の側で歌い続けた。
早く実れ実れと。
彼女も、食べたくてしょうがなかったのだろう。
だが、残念ながら一夜で実らせる奇跡は起きなかった。
「本当ですか!? そ、それはどこに!」
ハレの言葉に、鋭く食いついたのは男だった。
「是非、是非教えてください! あの実の新鮮さ具合から、そう遠くないとは思っていたのです! この町の近くなのですか!?」
興奮しているのか、ハレの腕を掴んですごい力で前後に揺すられる。
悪意がないのは分かっているが、さすがのリリューが止めに入るほど、大きく視界が揺らされてしまった。
教えてやりたいのは、やまやまだ。
しかし、旅の途中、気軽に戻るわけにもいかず。
そしてもうひとつ、決められた二人の男以外と同行してはならない制約にひっかかる。
どうかして、この男の望みを叶えてやりたいものだと思案を巡らせていると。
「あの…私がさっと行って教えるのなら、大丈夫ですか?」
おそるおそる、モモが言葉を挟んできた。
「目印に、木に紐を巻いてきたので…分かると思います」
ああ。
運命だったのか。
ハレは、思った。
この男は、今日──あの木に出会う運命だったのだ。
「素晴らしい演説でした」
男の話が終わり、広場は村の素朴な楽隊の演奏が始まった。
料理や果物がふるまわれ、踊り出すものもいる。
ハレがそう声をかけると、男は驚いた顔をした。
「あなた方のような旅人が通るのは、これで三組目です」
そして、残念そうに笑うのだ。
「もしやと思って鼻を効かすのですが、やはりまだ20年では実はなりませんね」
ああ。
彼は、テルとオリフレアの一行のことを言っているのだろう。
その度に、男は匂いを嗅ぎに行ったのか。
それほどに、昔のことが忘れられないのだ。
「太陽の木…らしきものを見ましたよ」
あの木の場所から町までの距離、そして男の話を噛み合わせると、つじつまが合う。
昨日、コーは一生懸命木の側で歌い続けた。
早く実れ実れと。
彼女も、食べたくてしょうがなかったのだろう。
だが、残念ながら一夜で実らせる奇跡は起きなかった。
「本当ですか!? そ、それはどこに!」
ハレの言葉に、鋭く食いついたのは男だった。
「是非、是非教えてください! あの実の新鮮さ具合から、そう遠くないとは思っていたのです! この町の近くなのですか!?」
興奮しているのか、ハレの腕を掴んですごい力で前後に揺すられる。
悪意がないのは分かっているが、さすがのリリューが止めに入るほど、大きく視界が揺らされてしまった。
教えてやりたいのは、やまやまだ。
しかし、旅の途中、気軽に戻るわけにもいかず。
そしてもうひとつ、決められた二人の男以外と同行してはならない制約にひっかかる。
どうかして、この男の望みを叶えてやりたいものだと思案を巡らせていると。
「あの…私がさっと行って教えるのなら、大丈夫ですか?」
おそるおそる、モモが言葉を挟んできた。
「目印に、木に紐を巻いてきたので…分かると思います」
ああ。
運命だったのか。
ハレは、思った。
この男は、今日──あの木に出会う運命だったのだ。