アリスズc

「私はね…もっと『女』というものを使いたいのですよ」

 ヤイクの話の始まりは、そうだった。

「女を、使う?」

 思わず、テルは復唱していた。

 まだ塊が大きすぎて、うまく咀嚼出来なかったのだ。

「そうです…寺子屋制度のおかげで、女も男と同じほどの基礎学力を身につける時代になりましたからね。その能力を、もっと活かしたいのです」

 ヤイクは──饒舌だった。

 ずっとずっと、頭の中に溜め込んでいたものを、片端から吐き出すようにテルにぶつけてくる。

 女であれば、便利な職業もあるのだと。

 たとえば、医者。

 女は、怪我や病気をしても医者に行くのをいやがる。

 何故ならば、医者が男だからだ。

 医者とはいえ、男の前で身体をさらしたくない──分かりやすい話だった。

「私は町に出て、たくさんの話を聞いてきましたが、知識を得た女たちは、その知識を活かす先を探しています。そして、その中の一握りは、確実に下っ端役人よりも、遥かに有能でした」

 女、女、女。

 ヤイクの口から、鮮やかに語られる今の女たちの姿。

 彼は、本当に女が好きなのだ、と分かる。

 女という生き物が。

 ウメに育てられ、この男はどれほど女を見る目を変えたのか。

 女のための門戸を、ヤイクはどうにかしてこじ開けようとしている。

 この国の、堅牢な男社会の壁に、穴を開けようとしているのだ。

 これまでの旅路で、彼はただ女の話をしていたわけではなかった。

 テルに、現在の女の立場や、よい女の話を聞かせたかったのだ。

 彼女たちの地位を向上し、記録にわずかでも名が残るように──残るように?

 ああ。

 テルは。

 ヤイクの心に、初めて触れた気がした。

 ああ、そうか。

 お前は、ウメの名を残したいのか。

 ただ残すだけではなく、更によりこの国のためになることを考えたのか。

 テルは、それを口には出さなかった。

 出したところで、この男が認めるはずがない。

 ささやかな望みを隠すために、大風呂敷を広げるこの男を──テルは前よりももっと愛しく思った。
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