アリスズc

「おはようございます、我が君」

 翌朝。

 扉を開けると。

 先に部屋を出ていたヤイクが、そうテルに語りかけた。

 そこには、ビッテもエンチェルクも既に準備を終えて待っている。

 そんな中で、彼はそう言ったのだ。

 ざわっと、うなじの毛が逆立つ。

 そうか。

 昨夜、彼は本心を吐露した。

 ウメを、そして世界中の女の地位を、この男は引き上げる気だ。

 その女の中に──エンチェルクも入っている。

 それどころか。

 おそらく、ヤイクはそんな女の地位を引き上げる先導者に、エンチェルクを据えたいと考えているのではないだろうか。

 だからこそ、彼はとてもエンチェルクに強く当たる。

 それは、彼女を強くしたいから。

 貴族である自分に抵抗し反論し、意見出来るほどの女に育てたいと思っているのだ。

 その素養が、エンチェルクにはある。

 長い付き合いで、そうヤイクは見抜いているのだ。

「お…はようございます…殿下」

 ビッテが、戸惑いがちに声をかけた。

 何か。

 何か、とても大きな衝撃を受けたかのように。

 潔く強い男が、ヤイクのたった一言に、うまく対応出来ずにいる。

「おはようございます…」

 エンチェルクも、うまく『殿下』と言えないようだった。

 ヤイクは、言ったではないか。

『我が君』と。

 テルは、それを噛みしめる。

 この男は──生涯の忠誠を、たったいま自分に誓ったのだ。
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