アリスズc

 捧櫛の神殿が、もう本当にそう遠くないところまで来た日。

 その夕刻。

 テルは、『奴ら』と対峙した。

 今やまさに、太陽が沈まんとしていた。

 そして。

 月が、昇らんとしていた。

 そんな時間を待っていたかのように、奴らは街道の向こう側に立っているのだ。

 またも、100人は下らない人間を、奴らはこれが最後のチャンスとばかり投入してきたのである。

 テルが既に魔法を使ったのを、向こうは知っているだろう。

 最初の部隊がどうなったかは、既に伝わっているはずだ。

 もはや、テルは魔法は使えない。

 それが分かっているからこそ、奴らは彼を確実につぶしにきたのだ。

 その後に後続を狙うのが、一番効率のいい戦い方だった。

 テルでも、そうする。

 分かっていたとしても、テルは進むしかなかった。

 考えていた。

 このことだけを、彼はここまで考えてきたのだ。

 いま、テルにとって一番対処しづらい戦いが、いまのこの状況なのだから。

「お戻り下さい」

 ビッテが、テルの前に立ちはだかる。

 真剣な、いや──懸命な眼差しだった。

「倒せるか?」

 聞いた。

 答えなど分かっている。

「命に代えても…」

 こう言うしかない。

 ビッテの剛腕でも、あの隙の大きな動きでは、必ずどこかで綻びる。

 50人倒せても、残りの50人に串刺しにされるだろう。

「私も…参りますから、どうかお戻り下さい」

 エンチェルクが、同じく前に立った。

 ずっとずっと後ろにいた女が、自ら前に出てきたのだ。

 70人。

 70人を倒し、2人味方を失う。

 テルは。

 目を閉じる。

 そして──考えた。
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