アリスズc
∠
キクは、本当に沢山のことをテルに教えてくれた。
剣の事だけではなく、どうやって戦うかということまで。
戦争ではなく個別の戦いでは、剣士は一人で大人数を相手にすることもある。
圧倒的に不利な状況を、どう戦うか。
その中のひとつを、テルは記憶から引き出したのだ。
『その昔、日本中に名の轟いた剣豪がいてな』
キクの祖国で、伝説のようにいまも残る男の話。
テルは、とにかくヤイクと全力で走っていた。
彼は、剣の一環で身体を鍛えてはいたが、まだ子供の姿であったし、ヤイクは体力には自信のない男だ。
それでもヤイクは、ここまでの旅路を歩いてきたのである。
都でなまりきっていた足も、多少は強くなっているようだ。
『その男は、一人で何人も相手にして生き延びてきた』
テルたちが逃げたことで怒りが爆発した連中が、猛然と後方から追ってくる。
『確かに男は強かったが、強いだけではなく…』
飛びぬけて足の速い連中が、彼らの傍まで迫った時。
振りかえりざまに、ビッテとエンチェルクが、それらを斬り捨てる。
『強いだけではなく…足が速かったのだ』
キクが、ニヤッと笑った。
テルの頭の中で。
彼も、同じ笑みを浮かべた。
悪い、戦い方だ。
しかし、一対一ではないのだ。
より不利な立場の人間は、生き延びるために知恵を絞る。
最初に十分な距離があったおかげで、すぐに全員に追いつかれることはない。
後方で二人が斬っては走り、また斬っては走りを繰り返す間、二人はただひたすらに距離を稼いで走る。
後方の武人より、どうしても足が遅いのだから。
百人いようが、一度に数人ずつしか相手にしなければ、それは百対一ではない。
これならば、少しずつ向こうの戦力を削っていけるのだ。
夕日が沈んでゆく。
月が昇ってゆく。
だが沈んだ太陽は──決して死ぬわけではなかった。
キクは、本当に沢山のことをテルに教えてくれた。
剣の事だけではなく、どうやって戦うかということまで。
戦争ではなく個別の戦いでは、剣士は一人で大人数を相手にすることもある。
圧倒的に不利な状況を、どう戦うか。
その中のひとつを、テルは記憶から引き出したのだ。
『その昔、日本中に名の轟いた剣豪がいてな』
キクの祖国で、伝説のようにいまも残る男の話。
テルは、とにかくヤイクと全力で走っていた。
彼は、剣の一環で身体を鍛えてはいたが、まだ子供の姿であったし、ヤイクは体力には自信のない男だ。
それでもヤイクは、ここまでの旅路を歩いてきたのである。
都でなまりきっていた足も、多少は強くなっているようだ。
『その男は、一人で何人も相手にして生き延びてきた』
テルたちが逃げたことで怒りが爆発した連中が、猛然と後方から追ってくる。
『確かに男は強かったが、強いだけではなく…』
飛びぬけて足の速い連中が、彼らの傍まで迫った時。
振りかえりざまに、ビッテとエンチェルクが、それらを斬り捨てる。
『強いだけではなく…足が速かったのだ』
キクが、ニヤッと笑った。
テルの頭の中で。
彼も、同じ笑みを浮かべた。
悪い、戦い方だ。
しかし、一対一ではないのだ。
より不利な立場の人間は、生き延びるために知恵を絞る。
最初に十分な距離があったおかげで、すぐに全員に追いつかれることはない。
後方で二人が斬っては走り、また斬っては走りを繰り返す間、二人はただひたすらに距離を稼いで走る。
後方の武人より、どうしても足が遅いのだから。
百人いようが、一度に数人ずつしか相手にしなければ、それは百対一ではない。
これならば、少しずつ向こうの戦力を削っていけるのだ。
夕日が沈んでゆく。
月が昇ってゆく。
だが沈んだ太陽は──決して死ぬわけではなかった。