アリスズc

 最初は、3人。

 それから5、2、4、4、3、5。

 中集団の、7。

 エンチェルクは、合計何人なのかを計算出来なかった。

 勿論、ビッテはもっと倒している。

 ひどく激しい呼吸の中で、それどころではなかったのだ。

 だがこの疲労は、相手も同じ。

 彼女らに追いつくために、向こうも同じだけ走らなければならないのだから。

 違うとするならば、剣を振る回数。

 それだけなら、エンチェルクは負ける気がしなかった。

 マメが何度もつぶれるほど、木剣を振ってきたのだ。

 ウメを守れる人間になろうと。

 マメのつぶれた手は、とてもみっともなかった。

 自分は、気にしないようにしていたが──ヤイクが気にした。

 軟膏を渡されたこともあった。

 あの頃のヤイクは、まだ小さい子供で。

 そして今は、ただひたすらに逃げるだけの男だ。

 それは、恥ずかしいことではない。

 ここで彼が出来る、唯一かつ重要な仕事だったのだから。

 テルを守る。

 そして、ヤイクもまた守るのだ。

 ウメの志は継いでいなくても、彼女の目を継いでいる。

 彼が生きて仕事をすることで、ウメの知識が広まってゆくのだから。

 テルが太陽となり、ヤイクが賢者になれば、なお一層広まることだろう。

 そんな未来のために走り、いま自分は、剣を振っているのだ。

 やはり、剣を習っていてよかった。

 いろんな知識は吸収しそこなったが、こうして自分は素晴らしい人間を守る盾と矛になっているのだ。

 剣の使える女だったからこそ、この旅に加われたのだから。

 足が。

 もつれそうになる。

 気配に振り返り。

 斬りつける。

 足元の土が、滑った。

 倒れ込みながら、下から斬りつける。

「エンチェルク!」

 自分の名を呼んだ男の声は──誰のものだったのだろう。
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