アリスズc
@
エンチェルクは、血と死体の中にいた。
ビッテが真っ二つにした死体の上半身が、彼女の上に振ってきたからだ。
月の男の死体と抱き合うような形で、エンチェルクは空から雷の矢が降り注ぐのを見た。
反逆者の女のそれとは、段違いの激しい力。
それを、彼女は茫然と見ていた。
あの雷に焼かれて死ぬかもしれない。
そんなことなど、どうでもよかった。
さっき倒れた時、彼女は終わりだと悟った。
ひどく足を痛めたと分かったのだ。
これでは、立ち上がっても走ることは出来ない。
彼女に出来ることは、一人でも多くの道連れを作ること。
それだけを、目標としたのだ。
なのに。
テルは、即座に走る戦法をやめた。
それどころか──ビッテを突撃させたのだ。
彼のことだから、勝算のないことはしない。
少なくとも、勝つ可能性があると思ったから、ビッテを出したのだ。
だが。
そのきっかけは、自分だった。
テルは。
太陽の息子は。
エンチェルクを、見捨てなかった。
一瞬の迷いもなく。
ただの、女だ。
生きて帰ったところで、何の役職も得ることのない、誰からも忘れ去られる女なのである。
走り続けた方が、勝算は高かったはず。
ここで彼女を見殺しにしたところで、誰もテルを責めることなどないのに。
それなのに。
エンチェルクは、涙を流した。
自分は、助けるに値すると。
そう、テルは判断したのだ。
もしも。
もしも、この雷の矢が、自分を撃ち殺さなかったのなら。
生き延びることが出来たのなら。
彼のつけた値以上の人間に──なりたいと心から思ったのだった。
エンチェルクは、血と死体の中にいた。
ビッテが真っ二つにした死体の上半身が、彼女の上に振ってきたからだ。
月の男の死体と抱き合うような形で、エンチェルクは空から雷の矢が降り注ぐのを見た。
反逆者の女のそれとは、段違いの激しい力。
それを、彼女は茫然と見ていた。
あの雷に焼かれて死ぬかもしれない。
そんなことなど、どうでもよかった。
さっき倒れた時、彼女は終わりだと悟った。
ひどく足を痛めたと分かったのだ。
これでは、立ち上がっても走ることは出来ない。
彼女に出来ることは、一人でも多くの道連れを作ること。
それだけを、目標としたのだ。
なのに。
テルは、即座に走る戦法をやめた。
それどころか──ビッテを突撃させたのだ。
彼のことだから、勝算のないことはしない。
少なくとも、勝つ可能性があると思ったから、ビッテを出したのだ。
だが。
そのきっかけは、自分だった。
テルは。
太陽の息子は。
エンチェルクを、見捨てなかった。
一瞬の迷いもなく。
ただの、女だ。
生きて帰ったところで、何の役職も得ることのない、誰からも忘れ去られる女なのである。
走り続けた方が、勝算は高かったはず。
ここで彼女を見殺しにしたところで、誰もテルを責めることなどないのに。
それなのに。
エンチェルクは、涙を流した。
自分は、助けるに値すると。
そう、テルは判断したのだ。
もしも。
もしも、この雷の矢が、自分を撃ち殺さなかったのなら。
生き延びることが出来たのなら。
彼のつけた値以上の人間に──なりたいと心から思ったのだった。