アリスズc
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 近衛隊長は、突然四歳の息子が出来た。

 名は、リリュールーセンタス。

 灰色がかった褐色の潮焼けした肌と、艶のない黒髪を持つ子供だった。

 都へ来てもその肌の色は褪めることはなく、リリューが海の側の生まれである事実を、永遠に残してくれることとなったのだ。

 そんな息子を連れてきたキクは、ダイの官舎に住まうようになった。

 リリューには、二人の親が必要なのだと、彼女なりに思ったのだろう。

 小さな子は、何度も夜にうなされて飛び起きた。

 その度に、キクはリリューをダイのところへと連れてくるのだ。

『ただ、一緒に寝てやるだけでいい』

 自分の巨体が、リリューを押しつぶすのではないかと心配だったが、幸いそんな事故が起きることはなかった。

 少しずつ、息子がうなされる日は、減って行った。

 キクは、母親としては甘みの足りない、いつも通りの彼女のまま、リリューと付き合っていた。

 毎朝、母子は一緒に道場へと通い、稽古をつける。

 夕刻。

 ダイは仕事が終わると、道場へそんな二人を迎えにゆく。

 そして、一緒に帰るのだ。

 リリューが、10歳になった時。

 初めて、ダイに向かって『とうさん』と呼んだ。

 子供なりに、過去に決着をつけるのに6年もかかったのだ。

 その言葉を聞いて安心したのか、キクはまた好きに生きるようになった。

 リリューは官舎に置いて、いったりきたりの生活を始めたのだ。

 それでも、朝きちんと一人で起きて、息子は道場へと出かけてゆく。

 6年の間、キクは息子に生きて行く術を、教えていたのだろう。

 ダイが、賢者になる頃には。

 リリューは、背の高い青年になっていた。

 がっしりとした骨格に、剣術で鍛えた身体は、ダイが見ても感心するほど。

「とうさん…行ってきます」

 朝の風景は、いつもと変わらず。

 ダイとキクとの間に子供は出来なかったが、リリューという息子がいる。

「ああ、行ってこい」

 キクは、時折息子にサダカネを触れさせていた。

 きっと。

 息子が、あれを継ぐのだろう。
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