アリスズc

 思えば──平坦な道だった。

 ハレは、それを強く噛みしめた。

 確かに、襲われることはあった。

 だが、いずれも少数相手で、

 テルの通った道に比べれば、それは何と平坦だったのか。

 テルは月に襲われ、太陽の反逆者を相手にし、そして月の多勢さえはねかえしたのだ。

 捧櫛の神殿が近付くと、またも大勢の人の死の話を聞いた。

 半数以上が刀傷、残りが焼け焦げていたという。

 テルが、もう一度魔法を使ったのだろうか。

 一瞬、考えたのだ。

 だが、もしそうだというのならば、あのテルのことだ。

 神殿に向かって進み続けることは考えにくい。

『悪いな、失敗した』

 そう言って、既にハレの前に立っているだろう。

 髪を短く切って。

 ということは、人を焦したのはオリフレアなのかもしれない。

 テルはまだ、ハレより先を歩き続けているし、既に神殿に到着しているのかもしれなかった。

 強き勇ましき──そして、とても賢い弟。

 本当に、テルは天に輝く太陽そのものだ。

 ハレは、というと。

 ゆっくりゆっくりと、たくさんのものと出会い、見る旅をしてきた。

 一人、同行者が増え、危険なトラブルにも襲われたが、みなすばらしい働きをして乗り切ったのだ。

 成長著しいコー。

 引きずられるように、変わってゆくホックス。

 安定したリリューに、気の利くモモ。

 だから。

 ハレは、顔を上げた。

 だから、これくらいのことは、自分も跳ね返さなければならないのだ。

「また…会いましたね」

 まだらの白い髪の男が、そこに立っている。

 コーを狙う、そしてハレの命を狙う、月の魔法使い。

 男は、今度は一人で乗り込む愚は犯さなかった。

 十人ほどの男を引きつれている。

「死ね」

 単刀直入だった。

 もはや、前口上などはない。

 音波が打ち出された。

 次の瞬間。

 ハレの前には。

 コーがいた。

 音の波は――打ち返された。
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