アリスズc

 その決着は――なんと表現すればよかったのだろう。

 リリューは、これまで様々な戦いを見てきた。

 だが、魔法の絡む戦いはごくわずかだ。

 それに、言葉がそこまで達者ではない自分では、うまく表現出来ない気がした。

 例えるなら、それは居合いに似ていて。

 男とコーは、睨み合っていた。

 先に、男が音という武器を抜くまで、彼女もまた微動だにしない。

 コーは、絶対に先に抜けないのだ。

 男が出そうとする音を、彼女は知らないのだから。

 みな、シンと静まり返っていた。

 生けとし生ける者すべてが、音を消したのだ。

 男の怒りが、そんな静寂の中で上がってゆく。

 それは。

 憎悪であり、殺意だった。

 この中のすべてを、亡き者にする歌が来る。

 大技を繰り出す気なのだろう。

 ハレは、彼女にすべてを委ねた。

 ならば、リリューに異論はない。

 はらり。

 枯葉が、ひとひら落ちた瞬間。

 男の唇が――開いた。

 リリューは。

 見た。

 枯葉が、粉々になる一瞬を。

 そして。

 次に粉々になったのは。

 男だった。

 男の周囲の木をも巻き込み、粉微塵に散り飛んだのである。

 立っているのは――コー。

 だが、その身はゆっくりと崩れ落ちる。

 モモよりも速く、後ろのハレが手を伸ばす。

 残念ながら、子供の身では支えきれなかったが。

 倒れる二人に、リリューは駆け寄った。

「私は大丈夫だ…コーを」

 うつぶせの彼女を、リリューが抱き起こすと。

 彼女は、ぐったりと気を失っていた。

 それ以外に。

 違和感を覚えた。

 何か、違う。

 リリューが、その顔をじっと観察するより早く。

 モモが、彼女の頭を撫でながら言った。

「年…追い抜かれちゃった」

 そう。

 コーの姿は、もう少女のものではない。

 五歳くらい、一気に飛び越えていたのだった。
< 205 / 580 >

この作品をシェア

pagetop