アリスズc

 捧櫛の本神殿に入ることが出来るのは、テルと貴族の血筋のみ。

 テルは、ヤイクを伴ってそこへ入った。

 ビッテとエンチェルクは、神官の宿舎を借りて待つことになる。

 まずは、成人の儀を執り行うための、手続きをしなければならない。

「ようやく、ここまで来ましたね」

 彼は、ようやく肩の荷が下りたように、吐息をついた。

 ここまで、危機の連続だったのだ。

 彼が、安堵するのも仕方がないだろう。

「さて…」

 案内された部屋で、テルが受け取ったのは父からの手紙だった。

 到着次第、渡すようにという指示があったらしい。

 その内容に、ざっと目を通す。

 テルが最後に考えたことは、まだ父に手紙を書いてはいない。

 しかし、その推理をこの手紙が裏付けてくれる可能性はあった。

 イデアメリトスの血を引く者たちの現在の所在が、そこには記されていたのだ。

 黒幕が誰なのか。

 まだ、何の想像も出来ていなかった頃に、頼んでおいたのだ。

 勿論、父も自分が動ける範囲で、調査を進めてはいるだろう。

 そして、テルが目をつけた人間もまた、そこに記されていた。

 ああ。

 なるほど。

 そういうことか。

 そうだというのならば。

「俺の成人の儀が済んでから渡すように、頼まれたものがあるはずだ。それを、いま受け取りたい」

 上位の神官を呼び、テルは確信していることを問い合わせた。

「ですが…それは…」

 手順が違うことには、融通が利かない。

 神官も役人も、さして差はない。

「宮殿から来たものを言っているのではない…宮殿以外の、まったく普通の人間から届いているものがあるだろう?」

 太陽の刻印のないものだ。

 それなら、渡しても差し支えあるまい?

 テルの言葉に神官は戸惑っていたが、ようやくにして折れた。

 宮殿から来たものでなければ、しきたりを守る必要などないのだから。

 そして、テルはようやくにして──それを手に入れたのだった。
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