アリスズc

 テルの成人の儀式は、翌日の真昼に決定した。

 その夜、彼の時間はひどくゆっくりとして長いものになった。

 明日、ついにテルは大人になるのだ。

 名実共に。

 この、もどかしいほどに小さい身体とも、お別れなのである。

 大きい人間は、数多く見てきた。

 特に、自分がなりたいと思う大きな身体は、キクの道場には本当にたくさんいて。

 リリューもまた、その中の一人だった。

 自分が、どんな姿に成長するのか、いまの時点ではまったく分からない。

 ただ。

 オリフレアは、彼女の母に似て想像通りの姿になっていた。

 テルは、父というより先祖代々の正当派な、イデアメリトスの容姿をしているらしい。

 そういう意味では、祖父が近いのだろう。

 祖父の、若い頃の肖像画を思い浮かべる。

 ああいう男になるのだろうか。

 こんな風に、あれこれ考えていると、胸がざわざわしてなかなか眠れないのだ。

 だが。

 眠らなければならない。

 寝台に横たわったまま、テルは己の長い長い髪に触れた。

 子供の頃から付き合ってきたそれと、明日別れるのだ。

 髪は、また伸びる。

 しかし、いまあるこの髪こそが、テルのこれまで生きてきた歴史だった。

 明日からまた、新しい歴史を作る。

 それが、彼の仕事。

 テルは。

 目を閉じた。

 眠るのは、嫌いではない。

 目が覚めた時には、明日の太陽と再び会えるのだから。

 道場の呼吸を思い出し、身体を落ちつける。

 子供の最後の夜は──そうして終わったのだった。
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