アリスズc

 神殿の中庭で、昼の祈りを太陽に捧げる者の中に、その人間はいたのだ。

 案内人に言われた男の前に、テルは立った。

 40代半ばほどの男が、異変に気づき祈りをやめて彼を見た。

 その目が、驚きに見開かれる。

「こんにちは…伯父上。お祈りは済みましたかな?」

 テルは、ゆっくりゆっくりと、言葉を刻んだ。

 昔、現太陽である父の兄は、成人の旅に失敗した。

 失敗の理由は、月の者に殺されたせいだ。

 そう、テルの伯父は死んだのである。

 しかし父の兄は──二人いたのだ。

 死んだのは、片方だけ。

 もう片方は、期限までに神殿にたどり着くことが出来ず失敗した。

 そう、生きている。

 それが。

 この男。

 髪を伸ばせないイデアメリトスは、ごく普通の貴族程度の生活は許される。

 人によっては──神官の道に入る者もいるのだ。

「叔母上は…死にましたよ?」

 何故、貴方は生きているのですか?

 テルは。

 この男に、大きな嫌悪を抱いていた。

 叔母を連れ出しテルを襲わせ、次に何の罪もない老神官を操って、彼を殺させようとした。

 自分の手を、この男は決して汚そうとはしなかった。

 おそらく伯父が得意なのは、人を操る魔法だ。

 そうだったからこそ、叔母の逃亡の発覚は遅れ、今日の事件を引き起こせたのだから。

 髪は短い。

 しかし、ないわけではないのだ。

 決して使ってはならないだけで、魔法を使えないわけではないのである。

 伯父は、魔法を使った。

 使ってはならぬ者が、使った。

「な、何の話だ?」

 焦ったように、右手が動く。

 刹那。

 テルは、容赦なく刀を抜いた。

 頭に触れかけたそれは、ただの肉の塊となって地面へ落ちる。

「いまのうちに髪を剃り上げて、石牢に放り込め」

 響き渡る伯父の絶叫など無視し──テルは周囲の神官に指示を出したのだった。
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