アリスズc

「遅かったな」

 捧櫛の神殿の入口で。

 ハレは、なつかしい弟と再会した。

 これまでのテルとは、何もかも違う。

 弟は──力強い成長を遂げていたのだ。

 これまで、彼が鍛えていた事は、何も無駄ではなかった。

 がっしりとした青年らしい体躯と、刀を掴むことを望んだ大きな手。

 リリューほどの背はないが、纏う気が彼を大きく見せる。

 そして、目が。

 元々、テルは強さを求めた子供だった。

 しかし、それは完成していなかったのだ。

 いまの彼は違う。

 旅をやり遂げた自信と、その途中の苦難が、テルの目に炎を入れたのだ。

「いい旅だったようだな」

 テルが、強い芯の通った声で語りかけてくる。

「ありがとう」

 まだ子供の姿のハレ。

 だが、自分もまた変わったのだ。

 旅立つ前の自身は、いまから思えばとんでもなく幼く感じる。

 沢山のものを見た、聞いた、そして──決断した。

「オリフレアに会ったよ…神殿で刃傷沙汰をやったらしいね」

 テルが、そんなとんでもないことをした理由は、ちゃんと聞いている。

 イデアメリトスの反逆者に、カタをつけたのだ。

 結局、ハレは一度も遭遇することはなかった。

 本当に全て、テルが引き受けたのである。

「生かしているのは…今後のためかい?」

 テルは、殺さなかったという。

 その真意を、ハレはそう読んだ。

 二度と、同じ事が起きないように、しっかりと原因を調べるためではないか、と。

 だが、テルは首をすくめた。

「父上が、話をしたいかと思ったのが少しと…」

 目を、細める。

「二度と起きないようにするための見せしめとして、きちんとした場で死んでもらわなければならないしな」

 テルは既に──太陽の道を歩いていた。
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