アリスズc

 満開の朝日の木の下では、祭りが始まっていた。

 太陽妃が接ぎ木をした時にも、同じように祭りがおきたとルアラは言う。

「あの方が、太陽妃になられるとは…思ってもみませんでした」

 彼の言葉に、ハレは苦笑した。

 何故なら、ルアラが一番初めに母を見た時、彼女はこの木によじ登ろうとしていたというのだ。

 大事なご神木という扱いだった木に、登ることは禁じられていたため、彼はとても鮮やかにそのことを覚えていたのである。

「母は、事あるごとに私に話して聞かせました。『お前は、奇跡の人に祝福をしてもらったのですよ』と」

 イデアメリトス以外で、初めて太陽妃となった女性。

 なおかつ、本来ならばひっそりと後宮にいるべき存在のはずが、さまざまな公式行事へと顔を出す。

 主に、農業に関する行事なのだが。

 そういう意味では、確かに奇跡の人だ。

 女性でありながら、母は世の男性以上の扱いを受ける。

 勿論、それは太陽妃という肩書きがあるおかげには違いない。

 それでも。

 前代未聞の、女性の活躍なのだ。

「ああ、分かったぞ」

 テルの、言葉は深く鋭く。

 兄である自分に向けて、投げられる。

「やりたいことが、これなら…行きたいところは…」

 テルは、決して思慮深い様子は見せない。

 それは、単純という意味ではなく、思考が動き出すと速いだけなのだ。

 動くまでは、まったく気にも留めていないというのに、一度動き出すと誰にも止められない。

「行きたいところは…セルディオウルブ卿のところか」

 素晴らしき連想力と、記憶力。

 テルは、母の仕事に大した興味を示さなかった。

 そんな男であっても、母が植えたという太陽の木の話は、覚えていたのだ。

 この国で、唯一人の手によって育てられているその木。

「御名答」

 ハレは、その木に会いに行きたかった。

 母の植えた、それはおそらくまだ若い。

 木にとって20年など、きっと成人もしていないだろう。

 ハレは、木というものをうらやましく思った。

 物は語らずとも──長く長くその世界を見ることが出来るのだから。
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