アリスズc

 双子の兄弟は、再び道を分かつこととなる。

 テルは、セルディオウルブ家に行く気がなかったのだ。

 分かっていたことだったので、ハレはそれ以上の話を弟とすることなく、出立を明日にすることにした。

「太陽の木を、見に行かれるのですね」

 ホックスは、少し嬉しそうだった。

 彼が見たのは、葉っぱ一枚。

 たったそれだけで、森の中のたったひとつの木を、太陽の木ではないかと推測した思考は素晴らしい。

 本物を見れば、その推測が確証に変わるのだ。

「荷馬車も…使えますが」

 ただし、ホックスはそれを付け足すことも忘れなかった。

 神殿につくまでは、徒歩限定だが、今後はどんな移動手段を使うことも出来る。

 往路で危険を味わったせいで、彼は帰りくらいは荷馬車を使いたいようだ。

 ハレは、苦笑した。

「それは…最後の手段にしよう」

 急いで、帰りたくなかったのだ。

 急いだところで、結局手前の領主宅に滞在する時間が長くなるだけ。

 都には、入れないのだから。

「そうおっしゃると思っていました」

 ホックスは、食い下がらなかった。

 最初から、分かってはいたようだ。

 しかし、もしかしたらという一筋の希望を捨て切れなかったのだろう。

 既に、ハレの希望や意思を、彼もまた汲んでくれているのだ。

「しかし…」

 そんな彼が、険しい表情を浮かべた。

「しかし…本当にあの娘を…伴侶にされるおつもりですか?」

 不快な色はない。

 困惑と、そして不安を消しきれない表情だ。

 もし、ハレが太陽の息子という立場でなければ、彼もそんな表情は浮かべなかったかもしれない。

 たとえ、コーに敵意がなくとも、その血が太陽に入ることを、良しとしない人間は両手の指では決して足りないだろう。

「反対されたら…駆け落ちでもしようか」

 ハレのジョークは、どうやらへたくそだったようだ。

 ホックスは──気難しげに、眉間を寄せただけだった。
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